【シエナ大聖堂―大理石象嵌による床装飾】
シエナ大聖堂にはあらゆる年代の傑作が数多くあるが、大理石のモザイクの象嵌細工と掻き絵の床は、多くの点で最も貴重な作品である。
16世紀イタリアの建築家で画家のジョルジョ・ヴァザーリはこの床を、「これまでの建築物の中で最も美しく… 、偉大で荘厳だ…」と記述している。
大聖堂身廊の床モザイク
大聖堂ドーム下の床モザイク
大聖堂のモザイク装飾の床は、ルネサンス期の哲学や造形美術の主要テーマが網羅されていて、ギリシャ・ローマ古代のロムルスとレムスに乳を与える牝オオカミから、ヘルメス・トリスメギストスの神秘思想まで、また、各地で神託を告げた10人のシビラ(巫女)から、古代ギリシアの哲学者、ソクラテス、アリストテレス、セネカまで、 様々な主題が描かれている。
ロムルスとレムスと雌狼
ヘルメス・トリスメギストス
10人のシビラ(巫女)のひとりヘレスポンチンシビル
上記のモザイク画は身廊で見ることができるが、翼廊の中心部分と聖歌隊席には、キリスト教の起源が描かれている。 ユダヤ民族の歴史から救いの教義までが、キリストの姿を通して描写されている。
これらすべての主題は、旧約聖書から引用されているが、例外として、ジョヴァンニの「ヘロデ王の幼児虐待」は新約聖書の マタイによる福音書から取られている。
ヘロデ王の幼児虐待
大聖堂の床のモザイク装飾は全部で56枚のパネルから構成されており、14世紀から16世紀にかけて、およそ40人の芸術家によって製作されたものだ。
最も壮大な場面は、ドーム下の六角形のモザイク画で、マニエリスムの画家ドメニコ・ベッカフーミ作の「 エリヤとアハブの物語」と 「モーゼの物語」である。 ベッカフーミは、大理石モザイク装飾の技術を、さまざまなグラデーションを使うレベルにまで完成させたことで知られ、 素描画のキアロスクーロ(陰影法)に近い効果を出すことができた。
エリヤとアハブの物語の一部
モーゼの物語の一部「モーセが岩を打つと水があふれ出る」
物語の下絵は、1505年に運命と徳の永遠の葛藤を表した「知恵の山」を描いたウンブリア地方出身のピントゥリッキオ以外は、サセッタ、ドメニコ・ディ・バルトロ、マッテオ・ディ・ジョバンニ、ドメニコ・ベッカフーミなどすべてシエナ派の主要な画家たちだ。
画像を下絵から床に写し取るのに最初に使われたのは、グラフィット(掻き絵)というどちらかといえばとシンプルな技法で、 大理石の平板に小刀やドリルで直接切り込みを入れ、次に、漆喰を塗る方法である。大理石象嵌技法だとかなり複雑で、木象嵌のように、異なる色の大理石の小片を寄せ合わせることになる。
知恵の山
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